裁判離婚には法定離婚原因が必要
本来、離婚とは夫婦双方の意思で成立させることができます。
離婚には大きく分けて4つの方法がありますが、裁判で離婚を成立させようとすると、法定離婚原因というものが必要になるのです。
これは、夫婦の一方が離婚をしたいと意思表示をしていても、もう一方が離婚をすることを拒否している場合などに必要となるものです。
離婚の合意はできているが、親権の取得や、養育費、慰謝料の額等で争っている場合は除きます。
法定離婚原因とは民法に定めれており、以下の5つになります。
- 配偶者の不貞行為
- 配偶者からの悪意の遺棄
- 配偶者の3年以上の生死不明
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
- 婚姻の継続が困難な重大な事由
以下では、各法定離婚原因の内容を見ていきましょう。
配偶者の不貞行為とは
不貞行為というと、不倫や浮気といったものをイメージされるかもしれませんが、法律上の不貞行為とは
「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて配偶者以外の異性と性的関係をもつこと」
です。
つまり、夫婦の一方が夫又は妻以外の者との肉体関係があったということが必要になります。
不倫や浮気の定義というものも曖昧ですが、気持ちが夫や妻以外の者に動いたということだけであったり、肉体関係を伴わない交際等はこれに当たりません。
夫婦は同居し、互いに協力し、扶助しなければならず、この同居・協力・扶助義務の中には、貞操を守る義務が含まれています。
貞操を守る義務とは、「夫婦以外の他の異性と肉体関係をもってはいけない」というもので、風俗店などで肉体関係をもち、そこに愛情が伴わない場合でも不貞行為となります。
なお、同性との肉体関係も不貞行為に含まれる可能性がありますが、これは裁判で個別に判断されることになります。
ただし、不貞行為があっても婚姻関係が破たんしていなければ、離婚の認められない場合もありますし、既に婚姻関係が破綻している後の肉体関係である場合には、不貞行為に該当しない場合もあります。
このあたりも裁判所の個別の判断に委ねられることになります。
配偶者からの悪意の遺棄とは
前述の不貞行為でも述べましたが、夫婦には同居し、互いに協力し、扶助しあわなければならないという義務があり、これを「同居義務」「相互協力義務」「相互扶助義務」といいます。
悪意の遺棄とはこれらの3つの義務を夫婦の一方が故意に、正当な理由もなく果さないということを指します。
夫婦が別居している場合でも、そこに正当な理由がある場合には、悪意の遺棄には該当しません。
具体的には以下のようなケースが悪意の遺棄に該当します。
- 生活費を渡さない
- 理由も無く同居を拒否する
- 何度も家出を繰り返す
- 虐待、苛めにより家を出ざるを得ないようにしむける
- 生活費は渡されるが、愛人宅に入り浸って帰ってこない
- 夫婦の一方が、配偶者の親との折り合いが悪く実家に帰ったまま
- 専業主婦が正当な理由もなく家事をせず放棄する
- 健康な夫が、働けない理由もないのと働こうとしない
など、多岐にわたります。
しかし、同居義務の例外として、以下のような場合の別居は悪意の遺棄には含まれません。
- 仕事上の出張、転勤による単身赴任による別居
- 夫婦関係を調整するための冷却期間を置く別居
- 子どもの教育上必要な別居
- 病気治療のための別居
以上のように、夫婦の一方に遺棄の意思があり、婚姻を継続する意思がない別居が、悪意の遺棄に該当します。
また、これら以外にも何が悪意の遺棄に該当するかしないかは、様々な状況を総合的に見て、裁判所が個別に判断することとなります。
配偶者の3年以上の生死不明とは
民法では配偶者が行方不明になり、3年以上の生死不明である場合は、結婚生活は破綻したものとして離婚を認めることとしています。
3年以上の生死不明とは、配偶者が最後に音信不通になってから、その生死が確認できないままの状態が3年以上継続して現在に至ることをいいます。
生死不明になった原因や当事者の過失などは問われませんが、客観的に見て生死が分からないというのは必須の要件になります。
単に住んでいる場所が分からない、メール等の何らかの連絡がたまに入ってくる、知人には連絡が入っている、というようなケースでは、生死不明の状況とは認められません。
3年起算点は、通常最後に音信があった時からになり、行方不明になった後はすぐに警察に届出を提出るようにしなければなりません。
配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
強度の精神病とは、その精神障害の状態が、夫婦の相互協力義務を果たすことができな程度に達していることをいいます。
「強度の精神病」で「回復見込みがない」かどうかは専門医の鑑定のもと、法律的に判断されます。
病者の離婚後の生活状況が劣悪になる可能性もあり、裁判所はこれを離婚原因と認めることに慎重にならざるを得ません。
精神病を患っている配偶者について離婚後も公的保護を受けて療養できる体制、離婚後は誰が看病し、治療費は誰が出すのか、など今までの経緯と、今後の生活に具体的な方策がなければ離婚は認められない等、弱者保護の観点により要件は難しいものになります。
なお、アルコール中毒やヒステリー、ノイローゼ、アルツハイマー等の病名では、重度の精神病とは認められません。
婚姻の継続が困難な重大な事由とは
婚姻の継続が困難な重大な事由とは、今まで見てきた事由以外でも、婚姻関係を継続させ共同生活の回復の見込みがないと認められる場合には、裁判所の判断で離婚請求を認められる場合があります。
しかし、この婚姻の継続が困難な重大な事由とは、その範囲は広く限定的ではないため、個々のケースによって裁判所が判断します。
代表的なものとしては、よく離婚理由に挙げられる「性格の不一致」もこの事由に該当するものとされています。
以下に挙げる例が代表的なケースとなります。
- 性格の不一致
- セックスレス
- 夫婦双方とも離婚の意思を持っている
- 配偶者から暴力・虐待行為
- 配偶者からのモラルハラスメント
- 配偶者の犯罪行為
- 配偶者の宗教活動にのめりこむ
- 配偶者の借金・浪費癖など
- 配偶者の親族との不和
これら以外にも、裁判所の個別の判断によりますし、これらに該当したからといって当然に離婚が認められるわけではなく、それまでの経緯を勘案することになります。
必ず認められるわけではない、法定離婚原因
法定離婚原因を見てきましたが、上記の5つの事由があったとしても、当然に離婚が認められわけではなく、さらに、これらの法定離婚原因と併せて、婚姻関係を継続させても夫婦関係の修復は不可能であろうという事情も必要です。
離婚をしたい方からすると、非常にお節介な制度かもしれませんが、離婚をしたくないと主張している側との利益の均衡を図る必要があるのです。
実際に離婚問題が、裁判にまで発展する可能性は低いのですが、以下の3つに関して言いますと、協議離婚や調停離婚の際には慰謝料の発生原因になる可能性があります。
- 配偶者の不貞行為
- 配偶者からの悪意の遺棄
- 婚姻の継続が困難な重大な事由
裁判に進むことまで想定していなくても、これらの事由があれば、離婚裁判でも慰謝料請求においても、有利になる可能性が高いので、離婚準備期間中にはしっかりと証拠となるものを収集しておきましょう。