強制執行を行うための全手順

いくら離婚時にしっかりと養育費や分割で支払われる慰謝料や財産分与の金銭の支払いを取り決めていたとしても、相手がをその支払いを怠る場合があります。

支払い期日が数日遅れる程度であれば、まだ許せる範囲ではあるのですが、一度支払いが遅れだすとそのまま支払いをしなくなるということもあるのです。

そんな時には最終的な方法として、相手の財産を差押え、その差押えた財産から強制的に支払わせるという方法をとることができます。

これを強制執行といいます。

なお、強制執行の申し立ては、相手方の住んでいる地域を管轄する地方裁判所に必要書類を提出して行います。

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強制執行に必要な債務名義書類

相手の財産を差押え、支払われなかった金銭を強制的に支払わせるという非常に強力な手段ですが、強制執行は誰もができるというわけではありません。

債務名義書類がなければ強制執行の手続きそのものができないのです。

債務名義種類とは難しい表現でいうと、強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者が記載された公文書のことです。

強制執行をすることができる債務名義書類とは以下のものになります。

  • 協議離婚の場合→公正証書(強制執行認諾約款付)
  • 調停離婚の場合→調停調書
  • 裁判離婚の場合→確定判決書
  • 認諾離婚の場合→認諾調書
  • 和解離婚の場合→和解調書

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公正証書の強制執行認諾約款とは、

「支払いをしなかったら強制執行しても文句を言わない。」

という宣言をする条項のことです。

私文書である離婚協議書での取決めでは強制執行はできません。

離婚協議書で強制執行を行おうとする場合は、金銭の不払いが発生した際に調停や裁判で争い、その離婚協議書を証拠として、調停調書や勝訴した判決書を獲得しなければなりません。

または、公正証書を作成することもできますが、金銭の支払いが滞った後に公正証書を作成するというのはまず不可能でしょう。

金銭の支払いに関する取り決めがある場合は必ず離婚時に公正証書を作成しておきましょう。

まずは支払いを促す通知から

いくら強制執行をすることができるからと言って、いきなり強制執行を行うのは良い手段ではありません。

話し合いや書面等で通知をし、支払いを促し、それでも金銭を支払わなければ、そこで初めて強制執行の手続きに進みましょう。

この理由については、また後日の記事でご紹介します。

強制執行を行う財産を検討する

話し合いや通知をしても相手が支払いに応じない場合は、強制執行の手続きに進んでいきます。

そこで問題なのが、相手のどの財産に強制執行を行うのかというところです。

強制執行ができる債務名義書類があるからといって、裁判所に手続きをしに行っても、裁判所が率先して相手の財産を見つけ、そこに差押えをしてくれるわけではないのです。

裁判所は相手がどのような財産を持っているかまでは調査してくれません。

相手の財産がどこにあり、どの財産を差押えるのかは、ご自身で調査しなければならないのです。

強制執行を行うことができる財産

強制執行ができる財産は大きく分けて以下の三つが挙げられます。

  • 不動産
  • 動産
  • 債権

不動産は、もうどのようなものかはイメージできますね。

そうです、土地と建物のことです。

そして動産というのは不動産以外の物をいい、車や家財道具等のその他全ての物のことをいいます。

債権とは、人が人に対して持つ権利のことで、実際に差押がしやすい債権として、銀行などの預貯金、何らかの会社に勤めている場合は給与を支払われる権利である給与債権等も挙げられます。

強制執行をかける財産を調査し、確定する

不動産や動産を差押えることもできるのですが、相手が会社員であるのなら給料債権を差押えるのが一番理想的です。

不動産は差押後、競売にかけなければならず、また不動産には抵当権などの権利が付着しているのが通常で非常に手続きが煩雑になり、動産の場合は価値が高くある程度の金額になる物なら良いのですが、換価してもほとんど価値のないものだと、なんの意味もありません。

預貯金口座は相手の口座の在りかが分かっていれば、差押をしてすぐに現金にすることができるのですが、預貯金口座は移動をしやすく、どこの銀行のどの口座にいくらの預貯金があるのかが分からないため、こちらもあまり現実的ではありません。

支払いを怠った者がわざわざ自分の預貯金口座を教えてくれるわけもありません。

実際に強制執行を行うために差押がしやすく財産は、給与債権になりますので、相手がどこに勤めているのかということは常に把握しておきたいところになります。

また給与債権は一度差し押さえてしまえば、毎月差し押さえる必要がなく、養育費のような継続的な支払いが必要なものには非常に適しているのです。

しかし、相手が自営業者の場合には、また違った対策が必要になるので、それはまた後日の記事でご紹介します。

債務名義の送達付与申請をする

ここまで来たら、いよいよ実際に強制執行の手続きに進んでいきます。

債務名義の送達付与申請は、その債務名義書類によってその取扱いが違いますので、ここでは多くの方がお持ちの公正証書と調停調書の場合を解説していきます。

執行文の付与申請

執行文とは「この書類で強制執行することができる」という文章のことです。

通常、公正証書の場合はその作成時にはこの執行文は付与されていません。

注)強制執行認諾約款とは別のものです。

これは執行文の付与申請を、その公正証書を作成した公証役場で執行文の付与の申請をし、執行文の付与を受けてください。

調停調書の場合は裁判所で執行文の付与を受けるのですが、子の手続きが不要になる場合がありますので、ご自身の調停調書を持ち、裁判所へ問い合わせてみてください。

債務名義の送達証明申請

公正証書の場合はその公正証書を作成した公証役場に、調停調書の場合は調停調書を作成した裁判所に債務名義の送達証明申請をします。

家庭裁判所の場合は、郵送でも執行文の付与と送達証明書を発行してくれますが、公正証書の場合には、直接その公正証書を作成した公証役場に直接行くか、代理人に手続きをしてもらわなければなりません。

強制執行申立て書を作成して提出する

強制執行申立書を作成するためには以下の書類をそろえる必要があります。

  • 差押命令申立書→差押の命令をしてもらうための書類です。
  • 相手の宛名を書いた長3型の封筒
  • 当事者目録→申立人、相手方、給与を差押える場合は相手の務める会社も記載します。
  • 相手が務める会社の登記簿謄本→給与を差押える場合に必要です。
  • 請求債権目録→請求する債権の内容について記載します。
  • 差押債権目録→差し押えする債権の内容について記載します
  • 住民票・戸籍謄本

これらを作成して相手の住所地を管轄する地方裁判所に提出します。

なお、強制執行の手続きは行政書士には依頼することができません。

強制執行を専門家に依頼する場合は司法書士又は弁護士に依頼しましょう。

強制執行は自分でもできる。

ここまでが強制執行の流れとなります。

強制執行の手続きはご自身でも十分可能ではありますが、慣れていないと相手の財産の調査や各種書類の作成は少し面倒なものになります。

いつかは強制執行を行わなければならないということを想定して、養育費等がしっかりと支払われているうちに知識を付けておくか、そのような時間がなく早急に強制執行を行う必要があるのであれば専門家に依頼するようにしましょう。

特に養育費の支払いが滞ってしまうと、離婚後の生活に非常に大きな障害となってしまいます。

この記事を読んだ方が少しでも早く、支払いの確保ができるようにと思っております。

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